5.0
この世とあの世と死役所と
「この世」と「あの世」の間に設けられたモラトリアムのような世界を舞台に綴られる、様々な人間たちの死に様と生き様。
まず、ひとつひとつのエピソードの完成度が非常に高く、読み手に喚起する感情も実に多様だ。
温かさ、哀しさ、怖さ、悔しさ、切なさ、やりきれなさ。
死の物語でありながら、そこにあるのは、私たちが生きてゆくことにまつわる全てであるように思う。
いかに死んだかということと、いかに生きたかということは、ある意味では、きっと、等価なのだろう。
また、基本的には短く完結する短編集的な作品でありながら、死役所の職員たちの背景を少しずつ描いていくことで、読者の関心を持続させているのもポイントが高い。
特に、シ村の生前に何があったのか、という謎の吸引力は素晴らしく、これほど続きが気になるオムニバスもあまりないだろうと思う。
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