5.0
ゾンビの世界の普通の私たち
ゾンビ漫画として、いや、ゾンビ映画も含めて、このリアリティーは圧倒的だと思う。
ほとんど唯一無二と言ってよい。
ゾンビをいかに恐ろしい描くか、ではなく、ゾンビをやっつけるヒーローをいかにカッコよく描くか、でもなく、ゾンビのいる世界で「普通の人間」がどう生きるか、ということをこれほど徹底的に突き詰めて描いた作品というのは、他にないのではないかと思う。
その想像力が、素晴らしい。
ゾンビのいる特殊な世界を構築するだけの想像力ではなく、特殊な世界に放り込まれた普通の人間、に対する想像力が、数多のゾンビ作品の中で突出している。
もし明日、ゾンビが大量発生したなら。
本当は別にゾンビでなくてもいいのだが、何か日常の秩序が崩壊するような事態が勃発して、パニック映画的な世界が訪れたなら。
普段ヒーローでも何でもない私は、案外、日常の中では抑圧されていたポテンシャルを存分に発揮して、ヒーローになれちゃうかもしれない。
などと、夢想家の私なんかは思う。
この種のフィクションを楽しむ読者の多くもまた、似たようなことを妄想した経験はあるのではないか。
でも、多分、なれない。
ゾンビが出ようが出まいが私は私であって、それ以上でもそれ以下でもない。
隣人にさっくり噛まれて終了のモブで終わるだろう。
しかし、それでもなお、本来モブであるところの私が、あるいは私たちが、ヒーローになろうとするならば。
その答えが、この漫画にはあるような気がした。
そう考えると、「アイアムアヒーロー」、このタイトルにもう、泣けてくる。
- 8