5.0
騙されるくらいでちょうどいい
セクシーなシーンがやたら多く、だいたい着物を着てそんなに身体のラインが出るんかいな、とか思うのだが、まあ、それはいい。
舞台は江戸時代、巷で起こる数々の怪事件を「当て屋」の椿が解決する、という筋立て。
と聞くと、多くの人は「推理モノ」の漫画を想像するのではないか。
金田一君とかコナン君の、江戸時代バージョンね、そんで、アダルトバージョンね、と。
違う。
本作は、一般的にイメージされる「ミステリ」ではない。
だって、例えば、人間にはどうしても不可能に見える事件が起きて、真面目な私なんかは「果たしてどんなトリックが?」とか悩んでしまうわけだが、それを「霊にとり憑かれた人間だから出来たのだ」と切り返してくるような漫画なのだ。
いやいやいやいや。
さすがにそれをミステリと呼ぶのは気が引ける。
かといって、「了解、オカルト漫画なのね」と覚悟してみたら、今度は意外に筋の通ったミステリ仕立てのエピソードもあったりして、「あれ?こういう路線?」と思ったらちょこっとオカルトが顔を出したりして、もう、わかんねえ。
普通、作品にはわかりやすい「暗黙のルール」みたいなものがあって、私たちは自然にそれを読み取っている。
例えば、金田一少年で犯人が超能力を使うのは「反則」だし、スラムダンクで花道がスタンド能力を発動するのも「反則」である。
「そういうことはないわよね」という前提で、私たちは安心して漫画を読む。
本作は、そのルールが、非常に曖昧だ。
そういう意味では、不親切な漫画だし、悪く言えば、破綻してもいる。
だが私は、この整合性も一貫性もない、ミステリとオカルトが渾然一体となったアンバランスな世界に、ちょっと魅了されてしまった。
話としての統一感はないけれど、人間の、うすら寒いような、あるいは煮えたぎるような、「情念」を描く、その一点において、本作には矛盾も迷いもないと感じたからだ。
椿がこだわる「理屈」とは、その情念のことではないかと私は思うし、漫画が輝くのには、何かひとつ本物があればいいのだと思う。
まあ、私は多分、騙されているのだろう。
破綻しているくせに、妙にドラマチックなこの漫画の演出に。
でも、何かに魅了されるときなんて、そんなものだ。
騙されるくらいで、ちょうどいい。
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