4.0
正常と異常の間で
昔、「カッコーの巣の上で」という映画を観た。
雑に言えば、正常と異常の境界を問いかけるような映画だった。
それを、思い出した。
作者自身の経験から、精神科のリアルな日常が語られる。
この「リアル」がよかった。
本作の「リアル」は、「取材」ではなく、「経験」した人間にしか語れない種類のものだ。
つまり、「出来事」が正確である、というだけのリアリティーではなく、現実に対峙した人間(作者)が何をどう受け止め、考え、感じたか、というリアリティーである。
素晴らしいのは作者の位置づけで、彼女はただの「ナース」でもなければ「観察者」でもない。
彼女はおそらく、「ちょっと何かが違えば、私もここにいたかもしれない」という意識で、絶えず患者に接している。
だから、彼女の分析は、客観的でありながら、決して冷たくはない。
「正常」サイドから「異常」を描く、というスタンスではない。
彼女自身が、はじめから正常と異常の間に立っている。
だから、精神科の患者たちを、あまりに普通に「同じ人間」としてフラットに見ることが出来ている。
そういう印象を受けた。
正常と異常の間に、自分は、立っていた。
その境界をまたいだ経験をした。
それこそが、彼女が「精神科ナースになったわけ」なのだろうし、ことによると、彼女にとってこの仕事は、天職と呼べるかもしれない、と思った。
その、少し危うい、でも正直で真っ当で、自分を偽らない立ち位置が、私は好きであった。
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