5.0
母親という役と子供という役と
作者さんはいったい何者ですかと思えるほど、心理描写が細かい。
母親である静子が感情を一気に溢れ出したと思ったら次の瞬間妙に陽気に振る舞う。
さっきまでベタベタ過剰な愛を押し付けて来たのに、急に素っ気なくなる。
静子の一挙一動に既視感があるのは、私の母もそうだったからだなと幼い記憶を呼び戻されました。
私の母親は直接的には言いませんでしたが、おかしくなる度に「結婚なんてしたくなかった」と言い、結婚式の写真を破り、私達の子供の頃の写真を破り、子供の頃はその行為にただただ傷付き恐れていましたし、また別の瞬間はびっくりするほど優しかったり。友達との約束は許されないことも多かったり、とにかく振り回されていたのですが、大人になった今考えると母は自分の人生全てに納得出来ず、壊してしまいたい一心だったのだろうと想像できます。
作中と同年代を過ごした人間なので、父親が仕事や付き合いで家庭を顧みなかったことや、妻がおかしいと病院に連れていくことをせず(あの頃精神科は特別だった)母は一度行方不明になり、入院するもその姿を見て父が可哀想だからという理由で入院と治療を拒否した過程が、静子が警察に捕まった時の一郎の姿に被ります。家が荒れていく過程や、親と出かけることで同級生に馬鹿にされるとか、あったな…と
私は未だに母の心の闇を知ることが出来ていません。多分、幼少期から何かあったのではないかとは思うのですが。
なので静子の心理や幼少期が描かれるのであればとても興味深いです。
家族だからこそ理解って非常に難しい。
自分語りが過ぎてしまい申し訳ありません。
絵も素晴らしいですね。
殆ど線で表現される全てのコマがこの閉塞感を見事に表現されていて、登場人物の表情も背景も見ていて辛いくらいです。
惡の華もあの年代のどこにも行けない感情が描かれていて素晴らしい作品でしたが、また違った切り口で描く作者様には脱帽です。
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