4.0
前半部分がものすごくよかったです
ひどく惨たらしい事件で傷を負ったヒーロー2人(ヒロインをとことん愛しているから国王もヒーローですよね)と、国王を懸命に聡明に支えるヒロインの10年という月日、その後個人として幸せを歩むお話でした。とてもよかったです。
最初の苦しく辛い1年が丁寧に描かれていて、その後の9年がまるっと割愛されているけれど、至るところでその9年を物語る描写が出てきて、そういうバランスや構成が上手でした。ほんとうに長く大変な月日だったことや、いまの平穏さが3人にとっての誇りであることがしっかり伝わってくる構成でした。
作者の力量をまざまざと感じたのは、中盤、国王とヒーローがヒロインについて本音で話した締めくくりの章。「不完全さは人である証なのかもしれない。ルークはなんとも愉快な気持ちになった。」この文章、特に1文目にハッとして読む手が止まりました。母に横恋慕した叔父による無理心中でひどいトラウマを負ったのに、この心情になれるまでどれほどの絶望と苦悩と葛藤があったのだろうと。そしてこの描写で、ルークがほんとうにしっかり立ち直ったことが分かります。叔父の不完全さを彼なりに咀嚼しただろうことも。この文章を軽いコメディパートのなかにさらっと入れ込めることのできる作者の技術に感動すらしました。
ただ、後半はすこし残念な部分も...(苦笑)
・あの壮絶な10年を乗り越えた人たちとは思えないほどみんなが涙もろい違和感
・ヒーローがさっさと愛の告白と、愛人問題の真実を伝えれば解決する話なのにしつこく拗れる
・台詞が現代語寄りのフランクすぎる口調になる
・最後、主語がヒロインのところが「シンシア」に誤植
・ほかの人たちがいるのに2人の世界の会話を延々としていて、その間ほかの人たちはどうしてるの? というシーンがいくつも出てくる
などなど...
お話の締めくくりももうすこし余韻があるとよかったです。そして欲を言えば、やっぱり叔父の犯行のきっかけももうすこし掘り下げて欲しかったです。
それでも、前半部分がとにかく良すぎました...。
結局恋愛はしたことがなく、ヒロインを手放して孤独になった国王が、次の王妃を公務として愛するだけでなく、ただただ幸せになれるように祈りながら読み終えました。
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