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作品レビュー
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1 - 10件目/全92件

  1. 評価:5.000 5.0

    実を結ばないその花は

    たまらなく悲しいけれど、心を洗われた。
    そんな読書体験は、なかなかあるものではない。

    まず、序盤から中盤にかけては、事件を巡る登場人物たちの証言と人物像がそれぞれ食い違い(特に被害者の恋人のキャラクターが、被害者の言と主人公の言で全く違う)、このあたり、サスペンスとして非常にスリリングで、抜群に面白かった。
    これは現代版&漫画版、芥川龍之介の「藪の中」だと思って、ワクワクした。
    何しろ芥川の「藪の中」は本当に真相が「藪の中」という作品だが、さすがに本作がそんな結末を迎えるとは思えず、着地点がどこになるのかな、と。

    後半、物語が「藪」を抜けてからは、事件の全貌がゆっくりと見えてくる。
    主人公の意図が明らかになり、「何があったのか」と「何が起きようとしているのか」がバランスよくシンクロしてゆく中で、物語は様式美すら漂うくらい綺麗に、しかし、悲しみに満ちた終幕へと向かってゆく。

    はっきり言って、主人公の「行動」には、リアリティーもクソもない。
    しかし、その執念、その情念、そして、ある特別な時代にしか持ち得ない友への強烈な思慕、そのリアリティーは、あまりに鮮烈で痛切で、「出来事」の噓臭さなんて吹き飛んでしまった。
    こういうのが、フィクションの真の力なのだと私は思う。

    タイトルの「徒花」という言葉は、咲いても実を結ばずに散る花を示す。
    何てことだ、タイトルからして伏線だ。
    しかし、実のところ本作は、咲いても実らなかった、ではなくて、実らなかったけれど、確かに咲いたよね、という物語ではなかったか。
    それは、主人公の「これでいい」という言葉と完璧に呼応する。

    エピローグのラストシーンが、信じられないほど素晴らしい。
    もちろん、見事な作画が前提にあってのことなのだが、このラストは、小説でも映画でもなく、漫画でなければ駄目な気がした。
    子どもを守ろうとしなかった大人、子どもを守れなかった大人、そして、子どもを守れなかった子ども。
    誰一人許されないようなもの悲しい世界の真ん中で、このラストシーンにだけ、唯一、本物の赦しがある。
    それはほとんど奇跡と言って差し支えないほどに、ただ静謐に、それでいて気が狂ったように、あまりにも美しい。

    • 303
  2. 評価:5.000 5.0

    これ以上は、何も

    前近代的な村に赴任してきた主人公の駐在が、村の人間が人を喰っているのではないかという疑惑を追うサスペンス。

    カニバリズムの異様性が醸し出す不穏な緊張感と、「八つ墓村」的な村の閉鎖性が煽る緊迫感、このダブルパンチがなかなかスリリングで、一気に読ませる。

    絵も、作品との相性はばっちりで、ちょっと劇画の香りを漂わせつつ、抜群の迫力がある。
    特に、登場人物の表情の雄弁さは素晴らしい。
    泥臭く、破壊力があって、しかも、繊細だ。

    主人公の娘が口をきけない理由、布を被った謎の大男(横溝正史の「犬神家の一族」へのオマージュかもしれない)、「後藤家には関わるな」という村の掟の秘密など、ストーリーの随所に魅力的なアイテムが散りばめられており、文字どおり、一部の隙もない。

    また、サスペンスでありながらなかなかドラマチックでもあり、特に、妻と娘を先に村から逃がして自分は村に残ろうとする主人公の決意のシーンは素晴らしい。
    こういうのって、普通だと「いや、逃げたらええですがな」という突っ込みどこなのだが、そういう「お約束」的な文脈を超越した、作品としての気高さに、私は泣いた。

    ストーリーの面で、何と言ってもポイントが高かったのは、あくまで皆「人間」という枠内で作品を編み上げた点だ。
    こういうタイプの作品は、往々にしてゾンビやらのモンスターが怪異の正体になる傾向にあり(別にそれを全否定するつもりもないのだけれど)、正直、途中までは「どうせ村人がゾンビ化しますんやろ?」と思いながら読んでいたのだが、いい意味で、完全に読み誤っていた。
    人を喰う村がある、というだけの設定から、よくぞここまで築き上げたと、手放しで称賛せずにはいられない。

    そして、村人たちの造形も、単なる異常者、ではない。
    時代に取り残された村という小さな世界の中で、また、因習と血脈というある種の呪いの中で、それぞれの村人が死に物狂いで何かを守ろうとしながら生きる姿もまた、私の胸を打った。
    主人公、その家族、村人たち、捜査関係者、その全ての姿を、思いを、真摯に描こうとする、作者の立ち位置が美しい。

    完璧だ。
    私は、サスペンス漫画に、これ以上は何も望めない。

    • 298
  3. 評価:4.000 4.0

    ひっくり返すテンプレート

    いわゆる「モラハラ夫」を扱った漫画が昨今、ちょっと辟易するほど多い。
    そういう作品を読んでいて、往々にして感じるのは、何か薄っぺらいなあ、ということだ。
    「またこのテンプレだよ」としょっちゅう思う。
    夫なり妻なりを漫画の悪役にしてつるし上げるのは好きにしたらいいけど、夫婦ってそんなに単純なものなのだろうか、と。

    本作はそういうテンプレートを綺麗にひっくり返した良作である。

    展開として、サプライズはあり得るけれど、それは「モラハラ夫と見せかけて、実は…」というサスペンス的な文脈での「どんでん返し」ではない。
    この漫画の描いたひとつの本質というのは多分、「家族の本当の姿なんて、そんなに単純じゃないのよ」ということなのではなかろうか。
    少なくとも、はたから傍観しているだけの他人が、その是非や幸・不幸を判断できるようなものじゃないのよ、と。
    その家族観みたいなものは、実に好感を持てるものだった。

    もうひとつは、「毒親」問題である。
    これも最近、本当に漫画で描かれることが多い。
    で、主人公が親をやり込める(ないしもっと苛烈な復讐をする)までがテンプレである。
    この点も、本作は、違う。
    主人公は、「何となく」母親を許す。
    このあたり、賛否あるのはわかる。
    特に、個人的な経験として親との軋轢がある読者は、「そんなに簡単にいくか」と感じるのも理解できる。
    何を何となく許してんねん、と。
    でも、私はこの「何となく」が好きだった。
    人が人を許すのに、ましてや子が親を許すのに、それほど確固たる根拠が必要なのだろうか。
    親を許せない人がいてもよい。
    親を切り捨てる人がいてもよい。
    親に縛られて人生を送る必要などない。
    私は心の底からそう思う。
    しかし、許せなかったつもりでも、何となく、どさくさのうちに許し合ってしまうようなことが出来るも、また、人間の美徳ではなかろうか。

    そういうわけで、現代漫画の二つのテンプレートを極めて自然にひっくり返した、なかなか見事な作品だと思う。

    • 300
  4. 評価:3.000 3.0

    悪の所在

    前半は、かなり興味深く読んだ。
    夫の浮気に悩む妻の心の微妙な動きが、なかなか繊細に、リアルに、表現されていると思ったからだ。

    (ここからネタバレ)

    しかし、夫の浮気相手が実は妻の友人で、こいつがとんでもない女で、しかも夫は浮気をしてすらいなかった、という展開には、私は冷めてしまった。

    そりゃ、サプライズはあった。
    あったけれど、この女があまりに圧倒的な悪役すぎて、主人公の夫婦は単なる「被害者」みたいな位置になり、漫画の文脈が、変質してしまったように感じた。

    私は、何となく、主人公の夫婦が、お互いの悪を抱えて、それをいかに許し、乗り越えるのか、ということに注目していたのだと思う。
    もちろん、それは勝手な期待なのだが、この展開になってしまうと、もう別の漫画じゃん、というか、何やらそこまで積み上げてきたものが崩れて台無しになってしまったように感じた。
    要するに、裏切られたみたいな気分になったのだろう。

    だってもう、夫婦が乗り越えなくてはならない問題なんて、ハナからなかったってことじゃん。
    悪いのはこの女だけじゃん。
    それがわかった後でも主人公はまた悩むけど、それは、何だかなあ。

    • 817
  5. 評価:3.000 3.0

    現代版「まんが日本昔ばなし」

    SNSを題材にした「転落モノ」の漫画は最近よくあるが、わりに楽しく読めた。

    寒々しいのは、この漫画に出てくる全員が醜い、ということだ。
    インスタで幸せをアピールする妻、ツイッターで愚痴る夫、そして、その両者を見世物として嘲笑う妻の友人たち。
    全員醜悪。
    北野武の「アウトレイジ」という映画は「全員悪人」がキャッチコピーだったが、全員悪人の方が、まだマシである。

    ①幸福を他人の尺度を借りてはかろうとすると、ろくなことはない。
    ②お互いをコントロールしようとするような夫婦は、幸せにはなれない。
    というわかりやすい教訓談であり、変な言い方だが、現代版「まんが日本昔ばなし」みたいな話だと思った。

    他人を極端にコントロールしたがる人間が私は怖いし、出来るだけ関わりたくない。
    だが、そういう種類の人間は一定の割合で必ず存在するし、出会ってしまったら、速やかに逃げるしかない。
    恐ろしいのは、この漫画の夫婦は離婚「しない」だろう、ということだ(少なくとも、しばらくは)。
    妻は、子犬を手のひらで転がしていたつもりが、いつの間にか、悪魔の手のひらの上で踊っていたのだ。
    そして、踊り続けるのだ。
    まあ、結婚する相手をコントロールしようなどとすると、バチがあたるぞ、ということで。

    • 526
  6. 評価:2.000 2.0

    設定の面白さ、底の浅さ

    一言で表すなら、「もったいない」漫画だと思った。

    「消したい感情を消せる」能力、という設定は面白いと思った。
    ネガティブな感情、例えば恐怖だとか怒りだとか嫉妬だとか、そんなもの、感じている最中は誰だっていい気はしない。
    だが、ネガティブな感情やコンプレックスが人間のモチベーションになり得るのはよくある話だ。
    だいたい、負の感情だって欠くことの出来ない私たちの一部なのであって、その一部分だけを都合よく消去しようとすれば、人間はあっさり破綻するだろう。
    そのあたりを、どう広げて、掘り下げて、ストーリーに仕立てるのか、というのが、私のこの漫画に対する期待だった。

    しかし、まあーその掘り下げが浅いの何の。
    「恐怖を失ったら、車に轢かれた」
    「怒りを失ったら、にやにやした何か気持ち悪い人になった」
    「嫉妬を失ったら、アイドルをやる気がなくなった挙げ句、狂信的なファンにバットで殴られた」
    おいおい。
    いくら何でも浅すぎる。

    余談だか、昔ジャンプに「マインドアサシン」という漫画があった。
    主人公は医者で、相手が「消したい記憶」を消せる、という能力を持つ。
    設定がちょっと似ているが、はっきり言って、「マインドアサシン」の方が百倍面白いので、興味のある方は、是非どうぞ。

    • 80
  7. 評価:4.000 4.0

    レビューの是非

    何も知らずに読みたかった。
    が、私は頭から「娘、または娘と夫の両方が死んでいるのでは」と疑いながら読み進めた。
    夫死亡説は離婚届のくだりでどうやらなさそうだったので、そうなると、娘一択。
    そういう目線で読んでいれば、必然的に、消費されない朝食とか、溶けていくだけのクリームソーダとか、主人公を奇異の目で見る周囲の様子とか、伏線は目につく。
    結果、よく出来ているな、という一定の感心はしたけれど、サプライズは得られなかった。

    娘の死に気づいたのは、私が鋭いからではなく、他のレビューによってである。
    さすがに、ネタバレありのレビューの中身は読まなかったが、レビューのタイトルなどで皆が「6話が」「6話が」と書いていれば、どうしても目に入るし、「嗚呼、これは6話でどんでん返しがある漫画なのね」という先入観は、どうしても出来てしまう。

    漫画、というか、作品におけるサプライズには、大きく二種類ある。

    ひとつは、作品に「どんでん返しがある」という前提で見ても、成立するサプライズだ。
    推理小説もサスペンス映画も、基本のサプライズというのは、こっちだ。
    読者や観客は、作品が自分たちを騙そうとしているな、という前提で見るし、あとは読者・観客の想定をどう裏切れるか、という勝負になるわけだ。

    もうひとつは、「そもそもどんでん返しがある作品だと思っていなかった」という種類のサプライズだ。
    推理モノやサスペンスとは違って、「えっ、そういう話だと思っていなかった」というサプライズである。

    本作は完全に、後者だ。

    そして重要なのは、後者の場合、「どんでん返しがある」ということ自体がネタバレなのだ、ということだ。
    問題はそのどんでん返しの内容ではない。
    どんでん返しがあると知ってしまった瞬間、サプライズのかなりの部分が失われるのである。

    今まで結構な数のレビューを書いてきて、他のレビューに恨み言を言うようなことはほとんどなかったのだけれど、今回はちょっと、残念だった。

    まあ、本作の場合、そのどんでん返しは「オチ」ではなく、言わばスタートのようなものなので、今後が楽しみなことに変わりはないのだが。

    • 60
  8. 評価:1.000 1.0

    焼きプリン

    先に言っておくが、私は本作にムカついているので現在いささか機嫌が悪く、かなり性格の悪いことを書く。

    登場人物をわざわざプリンだとかババロアだとかで表現しているのがアイデンティティーなわけでしょう。
    離婚というシリアスな物事をゆるい絵で描いてみたよ、と言いたいわけでしょう。
    だったらコメディとして機能していなければしょうがないと思うのだが、はっきり言って絶望的につまらない。

    こういう系の漫画に対して私が感じることは大体いつも同じだ。
    大人はもう少し自分の人生に責任を持て。
    夫がクズのような人間だった。
    はいはい、気の毒ですよ。
    しかしだ、何かを自分の意思で選んで失敗した責任を、全部誰かのせいにして生きてゆけるほど、私たちの人生はイージーモードではない。

    例えば、ギャンブルに大金をつぎ込むことを選んで失敗した。
    それって、そこまで同情されるか?
    「自業自得だ」ってならないか?
    結婚なんて、自分の人生を賭けた一種のギャンブルだろう。
    誰に強いられたわけでもない、義務でも何でもない、ただ、一人の相手に、自分の人生というチップを賭けて、そして、負けたんだろ。
    それが相手だけのせいなのか。
    競馬で負けて、責められるべきは馬なのか。
    私は何も、全てお前の責任だ、と言いたいわけではない。
    人生には不運もある。
    だが、運・不運に左右される物事を引き受ける覚悟がなければ結婚なんてすべきではないし、それに敗れたなら、百歩譲って、責任は二人のものであるべきだ。
    一方だけを悪者にするのはフェアじゃない。
    相手がどんなに酷い人間であってもだ。
    繰り返す、そのクズに賭けたのはお前だぞ。

    離婚直前、イケメンの医者になっていた初恋の人、じゃなかった、ケーキに出会って…という終盤の展開は冗談抜きで吐き気がした。
    ご都合主義だから、ではない。
    可哀そうな私にはこれくらいいいことあってもいいわよね、という腐った被害者意識が透けて見えるからだ。
    いい加減にしろ。
    お前なんか焼きプリンにしてやる。

    • 62
  9. 評価:2.000 2.0

    血の通わない家族たち

    家庭で妻と娘から虐げられている夫の話。
    夫はその理由がわからず、悩みながら生きている。

    まあ、好きに悩んでくれたらいいけど、いくら何でも都合がよすぎる展開に、正直うんざりした。

    駅のホームから落ちかけた主人公をナイスバディーの美女が助けてくれて、待ち合い室で話を聞いてくれて、「それってDVじゃないですか」などと差し出がましいことを言い、翌日にはSNSの投稿から主人公の居場所を突き止めて、自分を傷つけるような家族は捨てちゃったらどうですか、などとほざく。
    何なんだお前は。

    主人公の娘は不登校だが、久しぶりに登校したら転校生のイケメン(ちなみにこいつは主人公を助けたナイスバディーの息子)が突然、友達になろう、と手を差しのべる。
    その日の夜には、深夜のファミレスで話し合っている両親の会話を盗み聞きしたい娘のために、繰り返し、深夜のファミレスまでノコノコ来てくれる。
    何なんだお前ら親子の即効性の高いバイタリティーは。

    登場人物たちの苦しみも悲しみも怒りも、全てがご都合主義の作り物で、まるで血が通っていない。
    何の共感も同情も感情移入も出来ない。
    なぜならここに描かれているのは、人間の感情ではないからだ。

    • 53
  10. 評価:4.000 4.0

    彼女が「普通」に生きるまで

    「ヒル」という存在の設定は面白かった。
    ただ、「ヒル」がゴロゴロいたり、仲間を形成していたり、という設定には、ちょっと冷めた。
    「なさそうだけど、あるかも」という際どいラインを完全にオーバーして、「いや、ないだろ」に行ってしまった。
    もっとも、他にも「ヒル」がいることにしないと、どう話を展開させるかは難しいけれど。

    「ヒル」という存在は、深読みしようとすれば、居場所のない若者とか、社会的なマイノリティーとか、色んなメタファーがよぎるけれど、この漫画は、シンプルに、一人の女の子が「普通に生きる」覚悟を決める話でもある。
    「僕たちがやりました」もそうだけれど、「普通に生きる」ことの難しさというのは、現代のひとつのテーマなのかもしれない。

    特殊な方法で生き抜く、客観的にはかなり不気味な存在を扱いながら、主人公の成長物語としては非常に爽やかであり、その微妙なバランスは悪くなかった。

    酷評されているラストだが、物語は断ち切られ、それでも日々は続いてゆく、というような印象で、個人的には好きであった。

    • 50
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