5.0
とんでもないものを読んでしまった
何かとんでもないものを読んでしまった、という気持ちになり、心がひどくざわついた。
人に薦めるのは気が引けるが、凄い作品である。
近代西洋を舞台に、国内有数の資産家である「ブラッドハーレー家」に養子にもらわれていった少女たちをめぐるオムニバス。
ブラッドハーレー家は全てその養女からなる劇団を保持しており、孤児院で暮らす少女たちにとって、ブラッドハーレー家の養子となることは、憧れであり、希望であった。
しかし、ブラッドハーレー家が養子をとることには、おぞましく残酷な裏の理由があり…というストーリー。
何の救いもない作品で、典型的な「鬱漫画」の部類に入るので、読者を選ぶ。
しかし、その完成度は半端ではない。
美しく丁寧な描き込み、文学作品のような格調高いナレーション、繰り返し提示される人間の醜さと、その中で小さな光を放ち続ける人間の美しさ。
地獄のど真ん中においてさえ失われない、というか、失うことの出来ない良心や尊厳は、この漫画ではしかし、決して報われることはなく、ときにはさらなる悲劇さえ生む。
そういう全てに、私は徹底的に魅せられてしまった。
ストーリーとか、キャラクターとか、そういうものにではなく、この漫画が構築した、より大きな何かに。
それは、安易な言い方をすれば、世界観、ということになると思う。
残酷だとか、救いがないとか、確かにそうなのだけれど、この漫画の価値や本質は、そういうところではない気がする。
他のどこにもない世界を確かに創り出し、読む人をそこに引きずり込んで、忘れ得ない傷を残す。
これはそういう漫画であって、それはあまりに恐ろしく、美しい。
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