4.0
現代の寓話
この作者は、今、自分が最も注目している漫画家の一人である。
極めて現代的な観点から、しかも普遍的な角度で、老いや死を描くことの出来る、稀有な作家だと感じる。
昔話の中では、桃が流れてきて元気な子が生まれるとか、おむすびが穴に落ちて財宝が手に入るとか、老人に唐突なラッキーが訪れて、何だかんだで誠実な老人はハッピーになり、意地悪な人間にはバチが当たる。
が、現代は(多分、本当は昔もだろうけど)誠実な老人にとっても過酷である。
夫には先立たれ、子どもには見捨てられ、近隣からは孤立し、家はゴミ屋敷となる。
そんな老婆に訪れた「不意なラッキー」を描いた作品であり、私は、現代社会におけるひとつの寓話として読んだ。
また、この作者の漫画には、罪と、罪に対する許し、というテーマが繰り返し出てくる。
寓話的でありながら、単に「善人は結局めでたしめでたし」というだけの話ではなく、そこには罪という影があり、それが作品に奥行きを与えている。
清廉潔白ではなく、自らの罪を自覚しているがゆえに、他人の罪に対しても寛容であれる、という本作の主人公の姿は、ひとつの本質かもしれない。
星をひとつ引いたのは、「よろこびのうた」があまりに圧倒的すぎて、つい比較してしまったせいである。
そういう意味では、私の評価は、あまりフェアではない。
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