3.0
雰囲気と違和感
同じ作者の「蔵のある家」という漫画を読んだときは、「情緒がある」という感想を持った。
特別にひねりがあるわけではないが、独特の雰囲気があって、しみじみとした味わいがあった。
ただ、本作については、いささか首をひねった。
この作者独特の空気感みたいなものが、十九世紀末イギリスのブルジョワ家庭、という舞台設定に、イマイチ合致していないような気がしたのだ。
そういう意味では、ちょっともったいない、という印象を抱いた。
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同じ作者の「蔵のある家」という漫画を読んだときは、「情緒がある」という感想を持った。
特別にひねりがあるわけではないが、独特の雰囲気があって、しみじみとした味わいがあった。
ただ、本作については、いささか首をひねった。
この作者独特の空気感みたいなものが、十九世紀末イギリスのブルジョワ家庭、という舞台設定に、イマイチ合致していないような気がしたのだ。
そういう意味では、ちょっともったいない、という印象を抱いた。
いじめられている主人公の高校にミステリアスな転校生がやって来て、主人公を救い出してくれるのだが、どうやらその転校生が尋常ではなくヤバい人だ、という話。
「サエイズム」という漫画からコメディ要素を排除したような感じで、決してつまらなくはなかったのだけれど、終始「どこかで見た感じ」がつきまとってしまうのはなぜだろう。
ストーリー展開にも、登場人物の造形にも、一度もハッとするような部分がなかった。
手堅いと言えばそうなのかもしれないが、何もかもがあまりに類型の域を出ないと、読んでいてがっくりきてしまう。
読者のワガママだが、何かひとつくらいは、尖ったものが欲しかった。
江戸川乱歩や夢野久作はともかく、太宰治や谷崎潤一郎がミステリを書いていたのを私は知らなかったので、そういう意味では新鮮に読めた。
「あなたの知らない文豪の一面」を紹介する、というコンセプトは、きちんと成立していたと思う。
漫画の表現も、原作の空気を壊さない中でコンパクトにまとまっていて、好感を持った。
そして、この作者は、原作の文芸作品に対して、また、作家に対して、確かな愛着とリスペクトを持っているとも感じた。
それがなぜ、「文豪ストレイドッグス」で「ああいう方向」に行ってしまったのか、それを考えると、ちょっと残念である。
実在した江戸時代の妖怪絵師、「鳥山石燕」をモデルにした「烏山石影」を主人公にした妖怪漫画。
私は子どもの頃からの妖怪オタクであり、鳥山石燕という人は、私にとってはほとんど神様みたいな存在である。
現代に「姿」を残している妖怪の大半は、「鳥山石燕」→「水木しげる」という流れで存在していると言っても過言ではないと思う。
この二人がいなかったなら、妖怪という文化そのものが、既に滅びていたかもしれない。
そんな鳥山石燕を、漫画のキャラクターとしてどう描くのか。
大いに興味はあったが、正直、ちょっとがっかりした。
結局、鳥山石燕という「ブランド」を都合よく利用して、少年漫画的なキャラに仕立て上げている程度に過ぎず、石燕への愛情もリスペクトも、私は感じなかった。
とまあ、厳しいことを書いてしまったが、全てはひとえに私の鳥山石燕に対する思い入れのせいであり、漫画を単独で見れば、決して酷い代物ではない。
爽やかな恋の一場面を描いた短編集。
個人的には「花咲くマーブル」が好きだった。
ただまあ、難しいところなんだけど、正直、「ひとつ手前で終わった方がよかったのでは」という話が目立った。
読んでもらえばわかるが、「ここで終われば」というところから、ちょっと、続く。
その「ちょっと」を、蛇足と感じるかどうかで、評価が分かれると思う。
私は、その「ちょっと」のせいで、余韻というか、魅力的な余白が削がれてしまっているような気がした。
京極夏彦の原作の雰囲気をなかなか丁寧に表現しているとは感じたのだが、残念ながら、この漫画の直前に読んだ「鉄鼠の檻」(作画は別の作者)が凄すぎた。
短編と長編の違いもあるから、単純な比較はフェアではないけれど、それにしても、原作の空気の再現度、登場人物の造形の巧みさ、世界観の厚み、表現のインパクト、どれをとっても「鉄鼠」が圧倒的であり、本作は完全に霞んでしまった。
そういうことで、評価は厳しめになってしまったが、決してつまらない漫画ではなかった。
「世にも奇妙な物語」的な連作短編。
一話完結(サイトだと二話)で、私はこういうサクサク読める話は好きである。
ただ、いたって、普通。
普通の、奇妙な物語。
「世にも奇妙な物語っぽい漫画だよ」と紹介されてあなたが想像するとおりの漫画だと思って間違いない。
まあ、こちらとしてもそれ以上の何かを期待して読んだわけではないから別にいいのだけれど、本当に、普通。
よく言えば安心感があるし、悪く言えば驚きがない。
もう一度言うが、普通。
そんな本作に捧げる星は、三つ。
普段、少女漫画を読まない。
が、結構引き込まれて、一気に読んでしまった。
おそらく、少女漫画の読者層にも、推理漫画の読者層にも受け入れられる、そういう意味では、とてもバランスのとれた作品。
私のようなすれた人間は、正直、登場人物たちが眩しすぎてちょっと気後れしたし、物語の核心のところにはもう少しひりついたリアルなものがあってほしかったのだけれど、それは、この漫画に求めることとしては、間違っている気もする。
基本的な作品のトーンは前作と同じで、相変わらず面白いのだが、一話のエピソードの尺は半分くらいになっており、その点は好みが分かれるかと思う。
よりサクサク読めるようになったという良さもあるが、そのぶん、キャラクターの掘り下げは浅くなり、重みのあるパンチはなくなった気もする。
個人的には、「新」ではないバージョンの方が好きである。
個人的な好みの問題だが、復讐をする人間には、毅然としていてほしい。
加害者への共感や善悪のボーダーなど、振り切る覚悟がなければ、復讐なんて出来ないし、するべきでもない、と思う。
色々なものを飛び越えたり踏みにじったりして至る復讐の境地っていうのは、もっと、静かなものなんじゃないのかな。
例えば「善悪の屑」みたいに。
そういう意味では、「復讐者になりきれない復讐者」が本作の魅力なのかもしれないが、私はそこをうまく評価できなかった。
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