5.0
グロが大丈夫なら読むべき一作
『食人』で真っ先に想像したのが、映画『グリーン・インフェルノ』の食人族のような、村にやってきた外部の人々を原住民が『食料』と見なし次々と捕食する...といったものだったが、そんな単純なものとは全く別のベクトルの世界感だった。めちゃくちゃ深い。
これはもはや文明と文明の衝突。戦争。
後藤家からすれば、後藤家以外の人間は文化伝統を壊しにくる『侵略者』でしかないのだ。
私達のいう『一般的な常識』からは考えもつかない独自の文化や伝統をこの後藤家は代々、そしてこの瞬間も『守っている』のである。
それもまた後藤家からすれば一般的であり常識。
(どうやら銃を持つのも常識っぽいです笑)
見方を変えればどちらも正しい。
決してわかり合えない者同士だから敵対する。
それは個人間においても起こりうる事ではある。
ただ、この集団における閉鎖的な概念はまた(作者の意図と違っていたら申し訳ないですが)今の新興宗教にも通づるところがあるな、と。
確かに信仰や信念を持つことはもちろん自由であると共に、他に阻害される事も良しとしない事も確立されている。ただ反面、信仰を絶対的なものと位置づけ、大多数の意見を確実な正義とし、考えることを止めたら、疑うことを止めたら、それはもはや人としての境地をも超えてしまうのだな、と。
確かに始めは異を唱えるその余地すら与えられないスピード感もあるが、話が進むにつれ加速する緊迫感や異常な空気感は、疑念を持ち行動する者、飲まれるまま従う者、疑う事を知りすらしない者、様々な人物描写が絡み合うことで完成されている。
少ししか出てこない人物でさえ欠かせない。
全ての登場人物に意味がある、緻密に構成された作品だと思う。
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