4.0
設定を積み上げる
一生に一度だけ殺_人を許可される権利を保障するという、「一生一殺法」が定められた、という設定の話。
こういう突飛な設定の作品は往々にして「設定倒れ」に終わることが多いが、なかなか面白かった。
まず、設定を「一発ネタ」として放り出すのではなく、きちんと整えようとしている、穴をなくそうと腐心しているのがわかり、好感を持った。
例えば、殺_人の認可は「その殺_人によって救われる人生・人命があること」が前提であり(そのため「殺益」と呼ばれる)、役所に申請して行政の判断で受理される必要があるとか、
申請者本人が身体的または心理的理由により自ら執行が困難な場合は、執行委員会が代行するとか、
執行の事実は累計執行数が公表されるのみで、申請者と対象者の個人情報は保護されるとか、
インターネット上で法の濫用を促すと厳罰に処されるとか、
申請者と対象者が親族の場合は申請者は遺産を相続できないとか、
申請者も対象者も12歳未満は除外されるとか、
かなり丹念に設定を積み上げている。
まあどんなに繕っても「あり得ない」設定であることに変わりはなく、どういったって無理があるのだが、作品としてそれをカバーするための努力、破綻させない努力は立派である。
また、この手の作品は、設定をどう利用するか、どれだけ広げられるか、その設定から読者が想定し得る展開をどれだけ超えられるかがキーポイントになるが、その点も、話の転がし方はなかなか芸が細かく、バリエーションに富んでいて、退屈せずに読めたのは嬉しかった。
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