光る記者魂
今までに読んだ全ての犯罪実録漫画の中で、頭ひとつ抜けている。
ほとんど唯一、まともだったと言ってもいい。
私は潜在的に「こういう作品」を期待して犯罪実録漫画を読んでいたのだと思うし、「こういう作品」なんてないのかな、と思っていただけに、嬉しい発見だった。
ひとことで言えば、「記者魂」みたいなものを感じる作品である。
実際の事件を描く以上、自分で、きちんと、事実を、調べる。
書いていて恥ずかしくなるような当たり前のことだが、これをやっている犯罪実録漫画、マジでほとんど存在しない。
どの作品を見ても、Wikipediaで拾える程度の情報かそれ未満。
自分で物語を考えてフィクションを構築するわけでもなく、ノンフィクションとして事実を追求するわけでもなく、Wikipediaからの拝借でストーリーは一丁上がり。
どうして恥ずかしげもなくそんなことが出来るのか、私には本当に理解できない。
もっとも、このあたりは、時代もあるのだろう。
現代は、あまりに容易に情報が手に入りすぎる。
本作が描かれたのはネット社会以前であり、好むと好まざるとに関わらず、自分の足と頭で情報を得る以外になかった。
現代では、5分で手に入る情報に作り手が甘えてしまうのも、必然と言えば必然なのかもしれない。
何にせよ本作、そんじょそこらの犯罪実録漫画とは、情報量の次元が違う。
冒頭は大久保清の事件から始まるが、ちょっとネットで調べた程度では絶対に手に入らない事件の描写がそこにあり、おそらくは主に警察関係者に対してなのだろうが、徹底したリサーチには頭が下がる。
その上で、決して私情も私見も挟まない。
犯人にも被害者にも、同情を寄せない。
あくまで冷徹に、事実を見て、描く。
その凛とした姿勢には、なかなかしびれた。
事件が昭和なら絵柄も昭和、という感じで、古きよき劇画タッチだが、これが昭和の猟奇事件という題材と上手くマッチしているのもポイントが高い。
決して読んでいて楽しい種類の漫画ではないが、犯罪実録漫画を描くならこうあるべきだ、というお手本のような一作。
- 8
4.0