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彼女と彼氏の明るい未来

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あらすじ

さえない男・一郎と、奇跡の彼女・ゆきか。ハッピーエンドを目指して迷走する、ブラック・ラブ・コメディ開幕!

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ユーザーレビュー

  1. 評価:5.000 5.0

    愛しているならしょうがない/700本記念

    ネタバレ レビューを表示する

    通算700本目のレビューである。

    以前、この作者の「彼女は宇宙一」という短編集のレビューの中で、バランス感覚が突出している、ということを私は書いた。
    切実な感情や繊細な揺れみたいなものを緩くふわっと描けるバランス、本来シリアスな物事をあくまでポップな中で成立させるバランス、その奇異なバランス感覚が素晴らしい、と。
    その才覚は本作においてもバリバリに発揮されており、いやこの作者、マジで凄いと思う。

    相変わらず、SFのギミックを巧妙なアクセントに用いつつ、オブラートというかスライム的な緩い透明感に包まれて、とても可愛く描かれてはいるけれど、本作で表現されている人間の、というか男と女の弱さ、醜さは、誤解を恐れずに言えば、結構グロテスクである。
    ただ、それを決して露悪的に描くのではなく、作品の根底には、「私たちって色々駄目だけど、許してやろうよ」という優しさがあるように感じた。
    そういう種類の優しさが、私は好きだ。

    「相手の過去を許せるか」。
    それが本作のテーマのひとつである。
    ずっと昔、私がまだ学生だった頃、後に妻になる女性から「あなたに過去というものがあること自体が嫌だ」という意味のことを言われたことがある。
    結構ぶっ飛んだ感性だと思うし、妻が今どう思っているのかも知らない。
    ただ、あれから随分と歳をとって、思うのだけれど。
    嗚呼、この人には絶対に私が触れられない過去(あるいは現在)があるんだな、ということを受け入れられるのが、相手を穏やかに愛せることのひとつの条件なんじゃないか、という気がしている。

    「許してやろうよ」という本作の価値観は、実のところ、単なる寛容さとは違う。
    相手にどんな過去があっても、どんな現在があっても、愛しちゃったなら、しょうがなくない?
    そういうことなのだと思う。
    それはひとつの諦めではあるのだけれど、それ以上に美しい諦めというのは多分、この世に存在しない。
    私はそう思うから、彼氏が彼女の過去を許し、彼女が彼氏の現在を許し、今、同じ未来を見ている、というこの作品を、とても美しいと思った。
    何だよ、タイトルがイマイチと思ってたけど、よく考えたら完璧じゃん。

    by roka
    • 7

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