5.0
いらないものに、名前つけないでしょ。
「だっていらないものに、名前つけないでしょ。
壱にいいよって言われた気がした。生まれてきても、よかったよって。壱が、壱がはじめてなんだよ。」
「ーああ 俺も全部、お前がはじめてだよ。」
レビューから期待値高めで読んだのに、それをさらに上回る読後感でした。
江戸の風俗を描く画力、登場人物の魅力、ストーリーの引力と余韻。
読む前は36話かぁー、長いなどうしよう、と読むのを躊躇してましたが、読み出すと止まらず。
読み終えて、もっと壱とべなの世界に居たかった…と余韻に浸り。
江戸の両国の見世物小屋で、双子の二三(フミ)を亡くしたばかりの壱(受け。表紙下)が、正体不明のバケモノ(べな。攻め。表紙上)の世話を任されたところから、ストーリーは始まり。
以下、ネタばれ書き込みます。ご注意ください。
バケモノの正体は、人の赤ん坊が己を殺そうとした母親に、悔しさ悲しさが凝り固まって、鬼形になり、鬼の村からも不浄で危険だと追われた、鬼でも人でもないもの。
冒頭では、言葉も話せなかった。
バケモノではないという意味で、壱が「べな」と名付けると、べなはすっかり壱に懐き、壱を連れて見世物小屋を逃げ出す。
壱は幼い頃から病弱な二三を守るため、毎晩のように世話役のダンゾウたちに抱かれてきた。
その秘密を二三に知られ喧嘩した晩、二三はダンゾウの跡を付けて戻る。まもなく二三は病で亡くなるが、同じく病の壱は看取ることが出来なかった。
二三への罪の意識から、べなと一緒にいる罪悪感を抱く壱。拒否されたと思ったべなは、鬼形になり。
しかし壱は、ダンゾウから思わぬ事実を聞き、べなと一緒に生きていく決意をする(18話まで)
ひっそりと市井の片隅で暮らす壱とべなには、髪結いの定吉と手習所師匠のお奈緒夫婦という心強い味方があり。
鬼形の暴力性に怯えるべなに、夫婦は壱と駿府までの遣いを頼む。
べなが育った鬼の村へ、謝罪と感謝を伝えに行った2人は、江戸の戻るとダンゾウに会いに行き、世話になったと告げる。(32話まで)
33~36話はダンゾウの話。切ないです。
べなが壱に懐き慕い、愛する様子は、健気でいじらしく。
壱の献身的な愛情深さは、とても優しく。
心に深い傷のある2人は、一緒にいて生きていくことで、その傷を癒して前に向かって笑えるようになりました。
人と鬼形の、愛情と魂の再生のお話でした。
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