5.0
「理想郷は身近にある」大人のファンタジー
「男性著者が抱く理想が詰まっている」というコメントがいくつかありますが、それは確かにそうかもしれません。ですが、私(女性)が読んで不快かと言えばそんなことはありませんでした。「風俗」(ちひろさんは「元」ですが)「弁当屋」というのは大人の(特に独り身の)男性から見た時に視野に入りやすい場所なのかとは思いますが、この作品が一番伝えたいことはそこじゃないと思う。第24話の「デキた嫁」を読めば特によくわかりますが、どんな人でも何かしらの縁で接点ができた以上、その人を否定せず受け入れることが大事で、それには年齢も性別も職業も関係ない、ということを伝えたいのではないでしょうか。しかもそれを押し付けることなくサラリと気付かせてくれるのが、この作品の良い所だと思います。「デキた嫁」では口の悪くて弁当屋のみんなにちょっとだけウザがられている永井さんが出てきますが、なんだかんだ言いながらもみんな永井さんのことが嫌いじゃないし気にかけている。それでいてピンチヒッターで弁当屋にやってきた永井さんのお嫁さんのこともすんなり受け入れます。この作品って、社会のいろんなこと(良い部分も悪い部分も)が見えてきて、自分が手に入れられるのは高級クルーズや高級レストランでの休息ではないと自覚した時に、「周りの人が寄り添ってくれる優しさ」「ほっとするお弁当屋さんの味」「おじちゃんおばちゃんの他愛もない会話」という、“ひょっとしたら身近にあるかもしれない安らぎ”にノスタルジーを感じさせてくれる、そんな漫画なのではないでしょうか。正直、ちひろさんみたいな人は現実にはいないでしょうから、大人のファンタジーと“ひょっとしたら”のノスタルジーが絶妙な塩梅で合わさった漫画なのかな、と思っています。
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