5.0
これが愛じゃなくて、何なのだ
実際の「福井火葬場心中事件」を基にした、いい意味で、極めて現代的な漫画。
心が震える傑作である。
認知症、老老介護、児童虐待、という現代社会のヘビーな諸問題を題材にしており、ある意味では悲壮な物語であるけれど、シンプルでポップな絵柄が、絶妙なバランスを生んでいる。
これは、漫画だから出来る素晴らしい表現のひとつだと思う。
興味深かったのは、この漫画で描かれる、日本の古い共同体の姿である。
閉鎖的な限界集落で、八つ墓村的というか、今の時代、こんな共同体に魅力を感じる人間はまずいないし、私自身、否定的なイメージをずっと持っていた。
しかし、主人公の妻が犯した罪を、地域の住民皆が協力して隠し通そうとする姿には、胸が熱くなった。
悪く言えば、そういう隠蔽体質というのは、日本の古い共同体のネガティブな側面そのものなのだけれど、それを真逆から描いてみせたような抜群の切り返しには、思わず唸った。
生き方を選ぶということは、ある意味で、死に方を選ぶことと等価であると私は思う。
これは、老夫婦が死に方を選択する物語であり、そして、究極のラブストーリーでもある。
結末は、悲しくて悲しくて、でも、これ以外もこれ以上もきっとないんだ、と思って、涙が溢れた。
だって、これが愛じゃなくて、何なのだ。
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