5.0
ヨーロッパを作った海賊達
アニメ一気見でハマり、読み始めました。
キリスト教化する前、ガチ中世のヴァイキングの生きざまを、第二次ゲルマン民族大移動で彼らに襲われた国々(英国やフランス)の視点ではなく、アイスランドやデンマークのヴァイキング視点で描いた物語……というのが大変珍しくて、圧倒的面白さもありどっぷりハマってしまいました。
私が歴史物のマンガを好きで読むのは、当時の衣装や風習にめっちゃ興味があるからなんだけど、そういう細部をめちゃめちゃ精密に調べて描かれてるのが素晴らしいです。例えば序盤のトルフィンの幼少期、瀕死の逃亡ドれい(←NGワードに引っかかるのでこれで)を主から譲り受けるために、トールズが若い羊を引き渡す交渉をするシーン。あしべゆうほ先生の「クリスタル★ドラゴン」でも、ヴァイキングの集落で似たようなやり取りがあったですが(あれは更に1000年程昔の時代だけど)、ドれいは歴とした財産であり、その処遇や売買について嘘や誤魔化しは敵対する集落間であっても許されない……みたいな、当時の北方民族の法の概念がきちんと描写されてるんですよね。こういう法の概念を持っていたから、彼らが信仰していた北欧神話の神々は、誓約に沿って栄え、誓約によって滅びる神々だったんだな……とか、思わぬところで物語の奥行きが感じられるのが楽しい。まさに細部に神が宿った作品だと思う。
トルフィンは歴史上実在した人物だそうですが、私は彼がどんな人生を送った人なのか知りません。それはこの作品が完結するまで、調べずにいようと思っています。とある欧州史の教授の「ギリシアがう植え、ローマ帝国が花開かせ、キリスト教が肥料を与え、北方ヴァイキングが耕し、そして東方の遊牧民の馬の蹄が蹴散らして出来た、それがヨーロッパ」という言葉をとても印象深く覚えているのですが、ヨーロッパという偉大な文明圏を造ったマスターピースの一員であり、歴史の片隅に小さく名を残した「普通の人」でもあったろうトルフィンの物語を、この素晴らしい作品を通して見届けたいと思うのです。
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