ホラー漫画への愛情
1990年代に、空前のホラー漫画ブームがあった。
その象徴とも言うべき存在が犬木加奈子だった。
当時発刊されていたホラー雑誌10誌の全ての表紙を犬木加奈子が担当することさえあった、と言えば、その凄さが伝わるだろうか。
私は、そんな時代に、従姉の家でホラー漫画雑誌を読んで育った、犬木加奈子チルドレンであった。
しかし、時は流れ、全てのブームと同じようにホラー漫画ブームも終わり、ついに、ホラー漫画雑誌そのものが日本に存在しなくなった。
私が、あるいは私たちが、あれほど夢中になって震えたホラー漫画の時代は、終わったのだ。
今の時代に、「こういう漫画」というのは、もう読めないのではないかと思っていた。
だから、初めて読んだときは、初めてなのに、あまりの懐かしさに心が震えた。
暗すぎる絵、終始陰鬱なトーン、不意な残酷描写、他の何の漫画でもなく、これはホラー漫画なのですよ、というベタで優しい雰囲気、そして、見方によっては、半分ギャグ。
何もかもが、「あの頃」のホラー漫画だと思った。
どこまでもノスタルジックで、徹底的に時代遅れをやりながら、しかも、古臭さを感じさせない。
失礼な言い方かもしれないが、この作者は、現代における犬木加奈子の後継者ではないか、と思った。
決して誇張ではなく、現代のホラー漫画界において、希望であるとすら思った。
この作者には、ホラー漫画への本物の愛情があると、思ったからだ。
私はもう、恐怖を求めてホラー漫画を読んでなんかいない。
そういう時代は、ホラー漫画ブームの終焉と同じくらいのタイミングで、終わったのだ。
二度とは帰れない。
私がホラー漫画に感じているのは、単なるノスタルジックな感傷に過ぎない。
純粋に怖がれる心を失ってしまった大人として、かつて私を震え上がらせてくれたものへの淡い憧憬を、惰性で追いかけているに過ぎない。
でも、いくぶん肯定的に言わせてもらえば、私はずっと、ホラー漫画に対する愛着を、あるいは愛情を、捨てきれずにいるのだと思う。
だから私は、この漫画を永遠に支持する。
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5.0