5.0
蘭蔵さんと健一さん
生半可な気持ちで読み進められる作品...ではないですよね。最後まで読んだ唯一の理由は蘭蔵さんの行方が知りたかったからでした。狂気に満ちた大人達の中で育てられた異母兄弟蘭蔵さんと育郎さん。弟からどんなに酷い仕打ちを受けても自身の幼い頃赤ん坊だった育郎に抱いていた愛情の記憶を辿り、弟を守りたいと常に願う蘭蔵さん。ようやく典彦から離れた育郎と束の間の兄弟の時間を持つも、突然目の前から消えてしまった育郎に"お兄ちゃんしたかった"と涙する蘭蔵さんの姿に泣きそうになりました。後見人となったさちこさんの元で少しずつ言葉を覚えながら平和に暮らす蘭蔵さん。かつて"身内の恥/身内に疎まれるもの同士"が縁で蘭蔵さんの世話係であった健一さんの’お兄ちゃんをしたい’と願望を持ち、刑期を終えた彼を迎えに行く蘭蔵さん。突然目の前に現れた蘭蔵さんとの再会に涙する健一さんを慰め愛情を返してくれる健一さんに幸せそうな笑顔になる蘭蔵さんの表情が『全て』でした。究極の愛憎と執着心で繋がっている典彦の元へ戻った育郎、余生公の場には出られない典彦との二人のその後は...敢えて書かず読者の想像に委ねたでりこ先生の終わり方は素晴らしいなと思いました。
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