4.0
ひっくり返すテンプレート
いわゆる「モラハラ夫」を扱った漫画が昨今、ちょっと辟易するほど多い。
そういう作品を読んでいて、往々にして感じるのは、何か薄っぺらいなあ、ということだ。
「またこのテンプレだよ」としょっちゅう思う。
夫なり妻なりを漫画の悪役にしてつるし上げるのは好きにしたらいいけど、夫婦ってそんなに単純なものなのだろうか、と。
本作はそういうテンプレートを綺麗にひっくり返した良作である。
展開として、サプライズはあり得るけれど、それは「モラハラ夫と見せかけて、実は…」というサスペンス的な文脈での「どんでん返し」ではない。
この漫画の描いたひとつの本質というのは多分、「家族の本当の姿なんて、そんなに単純じゃないのよ」ということなのではなかろうか。
少なくとも、はたから傍観しているだけの他人が、その是非や幸・不幸を判断できるようなものじゃないのよ、と。
その家族観みたいなものは、実に好感を持てるものだった。
もうひとつは、「毒親」問題である。
これも最近、本当に漫画で描かれることが多い。
で、主人公が親をやり込める(ないしもっと苛烈な復讐をする)までがテンプレである。
この点も、本作は、違う。
主人公は、「何となく」母親を許す。
このあたり、賛否あるのはわかる。
特に、個人的な経験として親との軋轢がある読者は、「そんなに簡単にいくか」と感じるのも理解できる。
何を何となく許してんねん、と。
でも、私はこの「何となく」が好きだった。
人が人を許すのに、ましてや子が親を許すのに、それほど確固たる根拠が必要なのだろうか。
親を許せない人がいてもよい。
親を切り捨てる人がいてもよい。
親に縛られて人生を送る必要などない。
私は心の底からそう思う。
しかし、許せなかったつもりでも、何となく、どさくさのうちに許し合ってしまうようなことが出来るも、また、人間の美徳ではなかろうか。
そういうわけで、現代漫画の二つのテンプレートを極めて自然にひっくり返した、なかなか見事な作品だと思う。
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