4.0
削ぎ落とされた共感
「恋のツキ」から飛んできた。
「恋のツキ」同様、この作品も、一般的な意味での「共感」を削ぎ落としたヒロインで勝負している。
普通、「いかに登場人物に共感・感情移入させるか」で勝負するものなんじゃないか。
そういう意味では変化球もいいところなのだが、それでも読ませる力量は本当に大したものだと思う。
ヒロインの小谷は、通常の価値観からは外れてはいるけれど、そこに、一貫性はある。
ぶれていないのだ。
だからだろうか、私は、小谷を嫌いにはなれなかった。
まあ、好きにもなれなかったが、そんなのは作者の想定内だろう。
そして、山下である。
こいつも本当に駄目なのだか、この少年の小谷への想いは、恋愛のひとつの本質を突いてもいる。
周りは、言う。
「そんな女、やめとけ」と。
読者も、言う。
「もっといい娘がいるじゃん」と。
でも、そんなの、関係ないのだ。
「だって俺は小谷が好きなんだもん」、ということだ。
愚かである。
しかしその愚かさは、私のものであり、もしかしたら、あなたのものでもあるのではないか。
誰に何と言われても、あるいは自分自身ですら、「この娘とじゃ幸せにはなれそうもないな」とわかっていても、それでも、この人がいい。
「この人と幸せになりたい」、それも、恋だろう。
けれど、「不幸になるとわかっていても、この人がいい」、それも、恋じゃないのかな。
私はそう思うから、山下の愚かさを、笑えなかった。
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