4.0
片目と両目
まだ序盤なのだが、一種のサスペンスとして私は読んだ。
怖い。
作品における「人間の怖さ」の描き方にも色々あって、例えば、異常な人間が私たちのすぐ傍で暮らしているかもしれない、みたいなのはよくある話だ。
本作はそうではなくて、「自分のよく知っているつもりだった人間が、実は全く別の顔を持っているかもしれない」という恐怖を描いている。
よりにもよって、夫と、親友である。
怖いだろ、そんなの。
「たいがいのことは嘘の笑顔でできている」、現実がそこまで極端かは別として、それがこの漫画の世界観をそのまま表している。
「あなたの信じているそれって、嘘かもしれないじゃん?」と言われているような気がして、心がざわついた。
そういう意味では、実に嫌な漫画である。
主人公が母親に言われた、「結婚するまえは両目を開いて相手を見て、結婚したら片目を閉じなさい」という言葉は、象徴的であり、また、皮肉でもある。
それは確かに結婚生活の秘訣ではあるのかもしれないが、実際には、恋に落ちた相手に対して、「両目を開いて」いることは難しい。
そしてまた、愛してしまった相手に対して、「片目を閉じて」いることも難しい。
もしかしたら私たちは、片目を閉じたような状態で恋に落ち、結婚した相手を両目で見つめるような生き方をしがちなのかもしれない。
その両目で見つめた先に立っているのが、嘘で上塗りされた偶像ではなく、無条件で愛せるような誰かであるならば、もちろん、幸せなのだけれど。
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