5.0
漫画だからこそ
こういう「事件」が現実にあることは知っている。
それが決して珍しいわけではないことも。
しかし今作品を読むまで、私のそれが単なる情報でしかない、薄っぺらな知識に過ぎなかったことを痛感した。
まず私がぞっとしたのはゴキブリの描写だ。
新聞やテレビやラジオや週刊誌では絶対に添付され得ぬ画。
映画やドラマでも、あれほどに大量に部屋を這い廻るゴキブリなど描写されるわけがない。
後述されるネズミと違って、ゴキブリなんかスタジオに放ったら収拾がつかなくなるし、視聴者はお茶の間にそんなものを映し出されては怒髪天の勢いで放送局にクレームを入れる。
報道としての写真も無理だ。
たいていの場合はこのケースのような経緯を経て「扉」が開くのだろうから、そこで悠長に写真撮影など有り得ない。
この描写が可能だったのはそれが漫画だからだ。
漫画だから許された描写によって、こういう現実のリアルさを思い知らされた。
今この瞬間にも、どこかで、助けを求める意思も気力も体力もなく、膝を抱えた子供が確かにいるはずだと。
そうしてその子達が声を出さない最大の理由は、沈黙を親と約束しているからなのだ。
絶対に守られることない、「声を出さずにいい子にして待っていられたら──」という、甘い約束を信じて。
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