4.0
ホラーの品格
古い作品ではあるが、品のあるホラーで、安心して読めた。
短編集だが、共通して流れているひとつのテーマみたいなものは、「子ども」と「大人」だと思う。
子どもの頃に体験した「わけのわからない何か」が、大人になったときに、どうとらえられるのか。
私たちは成長し、一定の常識や判断力を身につけるが、子ども時代の記憶に刺さったある種の違和感みたいなものは、解決されないままに残ったりもする。
その、変わらない「わけのわからなさ」みたいなものが、上手にキープされているというか、変に合理的な解決を見ないまま、何となく嫌な感じを保って、ただ、そこに残る。
昔をふと思い出して、「あれは何だったんだろう」と何となく不穏な気持ちになった経験というのは、多くの大人にあるのではなかろうか。
その何とも言えない感じを、ホラー漫画のフォーマットに落とし込んだような、丁寧で精度の高い作品だと思った。
事実としての記憶、だけではなく、感情の記憶、というものを大切にしていないと、なかなかこういう作品は描けない気がする。
伏線が綺麗に回収される、というような話はないが、本作の一種の収まりの悪さみたいなものに由来する不気味さは、実感としてすごくわかるし、リアリティーのある大人の怪談、という感じで、私はわりに好きであった。
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